『相手に「伝わる」話し方』 池上彰 著 No.004

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便利な「話のテクニック」など存在しない

「ちゃんと伝えたつもりだったのに、全然伝わってなかった」

そんな経験、誰にでもあると思います。仕事の報告、プレゼン、日常の会話。言葉を交わしているのに、なぜかすれ違ってしまう。そんなモヤモヤを抱えていたときに出会ったのが、池上彰さんの『相手に「伝わる」話し方』でした。

タイトルだけ見ると、話し方のテクニック本のように思えるかもしれません。でも実際に読んでみると、それ以上のものが詰まっていました。これは「伝えるとはどういうことか」を、池上さん自身の経験を通して深く掘り下げた、実践的な一冊です。
本書の軸になっているのは、「相手の立場に立つ」という姿勢です。たとえば、専門用語を使うとき、「この言葉、相手に伝わるかな?」と常に自問自答する。わかりやすく話すとは、ただ簡単な言葉を使うことではなく、相手の理解のスピードや背景を想像しながら言葉を選ぶことなんだと教えてくれます。

印象的だったのは、「まず自分を売り込め」という話。これは池上さんが読んだ、トップセールスマンの手記から学んだことだそうです。商品を売る前に、自分を信頼してもらうことが大切。記者として情報を得るときも同じで、「この人なら話してもいい」と思ってもらえるような信頼関係を築くことが、伝える力の土台になるのだと語られています。

また、「短い文章を積み重ねることでリズムと説得力が生まれる」という話も、文章を書く人間としてはとても参考になりました。短文を畳みかけるように並べることで、自然とテンポが生まれ、聞き手や読み手の集中力を引きつける。これは話すときにも、書くときにも使える技術です。

さらに、「つかみ」の工夫や、ユーモアの使い方、専門用語の扱い方など、具体的なテクニックも豊富に紹介されています。でも、それらはすべて「相手に伝えるにはどうすればいいか」という根本的な問いに支えられているのが、この本のすごいところ。

そして何より心に残ったのは、「言葉は凶器にも薬にもなる」という言葉。言葉の力を知っているからこそ、池上さんは「想像力」と「思いやり」を何よりも大切にしています。自分の言いたいことを言うだけではなく、「相手は何を知らないのか」「どう言えば伝わるのか」を考えること。それが、真のコミュニケーションなのだと。

この本を読んでから、私自身も話すときや書くときに、少し立ち止まって「この言い方で伝わるかな?」と考えるようになりました。完璧にはできていないけれど、伝えることへの意識が変わったのは確かです。

もしあなたが今、「伝え方」に悩んでいたり、もっと伝える力を磨きたいと思っていたりするなら、この本はきっと力になってくれるはず。肩肘張らずに読めるし、読み終わったあと、誰かと話したくなるような一冊です。

身につけたい考えや行い

相手のことを考えて、どういう言葉遣いをしたら相手に伝わるか。相手はどこまでだったら理解できるか。常に自らの言い方を客観的に検証しながら話を進めていかなくてはなりません。

「この言い方、相手にわかるかな?」
常に考えることが私の習慣になってしまいました。そのたびに、「わかりやすく伝える」ことの難しさを痛感しています。「わかりやすく」伝えるとは、いったいどういうことなのか。

どの文章読本にも、「わかりやすい文章にするには短い文章にすること」という趣旨のことが書かれています。これが、話すときにも有効なのだということを知ったのです。

利用者つまり一般視聴者の立場に立って伝えると、テレビの前の人は、「このキャスターは、自分たちと同じ立場で考えてくれている」と受け止めるはずです。

セールスマンの販売手法を勉強しようと考え、自動車のセールスで日本一の記録を達成したセールスマンの手記を熟読したものです。そこで学んだことは、「自動車を売り込むためには、まず自分を売り込め」ということでした。

セールスマンが商品を売り込むためにはまず自分を売り込む必要があるのと同じように、記者が情報を得るためには、「自分」を相手に売り込む、つまり「自分が信用できる人間である」ということを相手に理解してもらうことが必要だということに思い至ったのです。

相手と会話になりにくければ、まずは「利き手」に徹することです。そのためには、相手に口を開いてもらわなければなりません。そこで、自分が知らないことを、相手に教えてもらうのです。謙虚な立場で相手に教えを請う姿勢を見せれば、大抵の人が口を開くものです。
その人にいろいろ教えてもらいながら、その「教え」を共通体験にして、会話を進めることができるはずです。

相手を信頼し、尊敬して教えを請う。自分を知ってもらう努力をする。この基本原則をきちんと守っていれば、もっと特ダネが取れたのではないか。いまでも時々こんなことを思い出すのですが、もはや後の祭りです。せめて、そのときの教訓を、こうして書き留めておきましょう。

どんなときも、まず「相手は何を一番に知りたいのかな。次は何かな」と話す内容に優先順位をつけながら、話す内容を組み立てていくのです。「相手は何を知りたいのだろう」ということを、常に考えます。そして、そのためにはどんなことを話せばいいのか考えます。これが相手の立場に立ったしゃべり方です。
これが、思いやりなのです。

相手の気持ちを理解しない報告は、相手にストレスをためます。

まずは、「とにかく大変なんです」というコメントから始める文章を考えます。その上で、その後の話の流れを作ります。ただ、「とにかく大変なんです」というのでは、あまりに漠然としています。そこで、放送で実際に発言するのは避け、全体の文章ができたところで、最初の「とにかく大変なんです」という部分をカットし、その次の文章から語り出すのです。

「つかみ」から入る手法は、大勢の人の前での挨拶や講演会などの際にも応用できます。聴衆にとって思いもかけない意外な話から始めたり、とっても身近な話題から入ったりすると、注目を集めます。ユーモアあふれる自己紹介や、ちょっとした小話から始める、という工夫もいいでしょう。
まずは相手に、「おやっ」と思ってもらい、その後の自分の話に興味を持ってもらうための大事な手法なのです。

よいリポートというのは、名文の条件と共通点があります。
それは、「文章は短く」という点です。井上靖をはじめ、多くの名文家といわれる作家たちの文章は、短文の積み重ねです。短い文章が積み重なって、独特の文体を作り出します。

短い文章を積み重ねる。畳みかける。そこにリズムが生まれ、記者の説得力も生まれるのです。これは、記者がいつも書く原稿の文章にもいえることです。

ありきたりの表現を避けて、どういう表現を使えば、相手に新鮮な驚きを与えることができるだろうか、と考えることが大事なのです。「本日はお日柄もよろしく……」と言わずに、たとえば、「きょうはとんでもない日ですが……」などと口火を切ることをまず決めてしまいます。こんな表現で聞き手を驚かすことにして、「さて、その後にどんな言葉、表現を持ってくれば、失礼に当たらない挨拶にすることができるだろうか」と考えてみるのです。こうした工夫を積み重ね、的確で新鮮な表現を使うと、相手の胸をノックすることができるのです。

いつも何気なく使っている表現が、どこでも誤解なく伝わるものなのか、それとも、その集団内部でだけ通用する特殊な言い回しなのか。集団の外にいる人と話をするとき、そのことに留意しなければ、コミュニケーションは失敗してしまうことがあります。
専門用語を外部の人に対して安易に使うのは、「こういう言い方は相手にわからないのではないか」という想像力、配慮、思いやりに欠けているからではないでしょうか。
伝える相手への想像力に欠けると、コミュニケーションは失敗します。

村松さんの会話術は、天性の才能にも見えましたが、その背後には、本人の努力がありました。出勤途上に、近所の人と話し込んだり、季節の花の咲き具合をチェックしたり、風の吹き方、日差しの強さをどう表現するか考え込んだりしているのです。自分の身の回りの出来事について、常に注意深く観察しています。だからこそ、とっさにどんな話題にでも対応できていたのです。

考えてみると、これは日常会話の原点でもあるような気がします。人と会話をするのだったら、できるだけ楽しくおしゃべりをしたいものです。ユーモアを交えた会話であり、なおかつ、相手や、その会話を聞いている第三者の心を傷つけることもないようにする。
常にそれを心がけることが必要だと思うのです。そうは言っても、簡単なことではありませんね。私だって、どれだけ不用意な発言で聞いている人の心を傷つけているかわかりません。他人のことを言う資格はありません。言葉は、使い方次第で、相手の心に突き刺さる凶器にもなれば、相手をなぐさめる薬にもなるのだということを心に留めておかなければならないと思うのです。

自分が理解できない原稿を読んでも、聞いている人がわかるわけがないのです。

大切なことは、ニュース番組の中で、キャスターが自分の意見や感想を視聴者に押しつけるようなことはあってはならない、ということです。

相手は何を知らないのか。
こんな言い方をして、相手にわかってもらえるのか。
ひょっとすると、相手は知らないのではないか。
常に自問自答し、伝える相手への想像力を持っていないと、わかりやすい説明はできないのだ、ということを思い知ったのです。

常にこういう言い方をするように心がけました。「君がわからないと言ってくれたおかげでわかりやすくなった」という言い方を繰り返すことで、子どもたちにも番組作りに参加している実感が湧きます。みんなで番組を作っていく、という雰囲気が出来上がっていきます。

わかりやすく説明するための五箇条
・むずかしい言葉をわかりやすくかみ砕く
・身近なたとえに置き換える
・抽象的な概念を図式化する
・「分ける」ことは「分かる」こと
・バラバラの知識をつなぎ合わせる

なんとか図解しようと努力すると、ものごとの枝葉の部分をそぎ落とし、本質だけが見えてくることがあるものです。ニュアンスが違わない程度に単純化してみよう、と常に考えてみました。
自分の頭の中に、その「絵」を描くことができれば、その「絵」を言葉にして相手に届け、相手の頭の中に、その「絵」を再現してもらうのです。そうすれば、日常会話でも、実際に絵を描かなくても相手に伝わるのです。

ただひたすら淡々と説明するのではなく、「間」やリズムを大切にして、相手との会話のキャッチボールができるように留意すると、会話ははずむのです。

謝るとき、私は、テレビを見ている不特定多数ではなく、「この番組を見てくれているあなた」に向かって話しかけようとしていました。不特定多数に漠然と伝えるのではなく、特定の個人に伝えているかのような気持ちで放送することの方が、視聴者に伝わるのではないか、と考えるからです。
私たちは常に相手に向かってなにごとかを伝えようとしています。しかし、それは果たして伝わっているのか。いつも伝える相手への想像力を持っていなければ、相手に伝えることはできないのではないか。

相手の心に届く言葉とは、どんなものか。実は、まず言葉にしてみなければわからないのです。相手に伝える言葉を紡ぎ出してみることで、その言葉が客観的に見て使える言葉なのか、相手に本当に伝わる言葉なのか、吟味してみることができます。
と同時に、「言葉にする」ことは、自分の考えをまとめることにもなるのです。

自分の頭の中、さらには他人との会話を通じた「ブレインストーミング」で、自分が実は何を言いたかったのかが、見えてくるのです。
「言いたいことが全部まとまってから話してみる」と考えている人は多いのですが、それではいつまでたってもまとまりません。
まずは、「言葉」にしてみること。それによって、言いたいことがまとまっていくのです。
これは、文章を書くときも同じです。大学で「卒業論文がなかなか書けない」という学生に対して、教授が、「とにかく何でもいいから書き始めてごらん」と指導することがあります。これも、同じこと。まずは文章にしてみることによって、自分の考えがまとまっていきます。文章の形にすることで、自分の頭の中の漠然とした概念を固定化し、それを客観的に見られるようになるのです。

自分の気持ちを言葉にして身近な人に話しかけるとき、抽象的な表現をしても、相手には何のことかピンと来ないことが多いはずです。言いたいことは常に具体的に。これが大切です。
どうしても伝えたいことがある。しかし、わかりやすく表現できない。そんなときは、伝えたい内容を示す具体的な例はないかな、と考えてみるのです。

「いつ、どこで、誰が、なぜ、どのようなことをしたか」という事実をはっきり示すことで、話がより具体的になります。
抽象論は眠くなる。具体論は相手が身を乗り出す。この原則を忘れないことです。

できれば言いたくはないけれど、どうしても言っておく必要がある。こんなときも、言葉にしなければ始まりません。言葉にして相手に言うことで、初めてあなたの思いが伝わるからです。では、そんなとき、どうするか。私は、こう考えています。
第一に、その場で言う。第二に、本人にだけ直接言う。第三に、陰口にならないように、という三点です。

「相手に向かって言えないような悪口は言ってはいけない」という原則を自分に課しています。

「どうせ聴衆は自分に大して関心を持っていないのだから」と割り切ってみると、「あがった」気持ちは、みるみる冷めていくものです。
ただし、「あがる」というのも、結構いいことがあります。
「あがる」というのは、緊張した状態になっていることですね。適度な緊張は、話すことにプラスの効果を与えるものなのです。

日常生活での挨拶も、言ってみれば生放送です。あがることで適度な興奮状態になると、かえっていい結果が出るのだ、と割り切って臨むことが、本当にいい結果をもたらします。
「あがる」という状態をうまく使いこなす。そのくらいの大らかな気持ちで、なにごとにもぶつかってみてください。きっと、いい結果が出るはずです。そうでなくても、時間が来れば終わるのですから。

相手に何かを尋ねられたときは、「この人はなぜこの質問をするのだろう」と常に判断する習慣をつけておくと、いつも状況にふさわしくわかりやすい答えができるようになるのだと思います。

話すべき内容があって、「伝えたい」という熱い思いがあれば、それは相手に伝わるものなのです。「これだけは伝えたい」という、内心からほとばしり出る情熱があれば、たとえ説明は拙くても、それは相手に伝わるのだと思います。
ただそのとき、相手への想像力、相手への思いやりを忘れさえしなければ。

目次

はじめに

第1章 はじめはカメラの前で気が遠くなった 

第2章 サツ回りで途方に暮れた

第3章 現場に出て考えた

第4章 テレビスタジオでも考えた

第5章 「わかりやすい説明」を考えた

第6章 「自分の言葉」を探した

第7章 「言葉にする」ことから始めよう

最後にもう一言

あとがき

20年以上前に書かれた本ですが、参考になります。置かれた立場、状況において、試行錯誤し、アウトプットを繰り返す。時には失敗もしながら。繰り返すことによって、答え合わせ、振り返りができる。その結果、場数を踏んでいない人に比べれば、相手のことを考えられて、わかりやすい話し方ができるんでしょうね。

紹介した本

書名『相手に「伝わる」話し方』
著者池上彰(いけがみ・あきら)
出版社講談社
発売時期2002年8月
ISBN978-4-06-149620-0
税込価格990円
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